10年後に、またお会いしましょう

11月に『フラットデザインの基本ルール Webクリエイティブ&アプリの新しい考え方。』が出版された。ウェブやアプリのデザインの本としては、かなり挑戦的な内容にしたつもりなのだが、おおむね良い評価をいただくことができて、ほっとしている。お読みいただいた方には、大変感謝しています。年末でもあるので、執筆の際に考えたことなどを振り返ってみたい。

フラットデザインの書籍を書かないかと聞かれたのは、お盆前くらいのことだったと思う。フラットデザインの流行というのは、インターフェースデザインの流れのなかでは、とても重要な出来事だと思っていたし、それをきちんと見ることで、インターフェースデザインというものを、もう一度きちんと考えることができると思い、この仕事を受けることにした。書籍の内容から、スケジュールが厳しいことはわかっていたので、かなり迷いはしたのだが。

しかし、フラットデザインについては、ネット上でも数多く語られているので、書籍として出す必要性を感じる内容であることが重要だ。現時点でのフラットデザインについて説明し、制作方法のTIPSをまとめただけの本にはしたくなかった。そうした内容なら、ネットのほうが情報も多く、タイムリーなものが手に入る。執筆開始前の時点で、すでに十分な量の情報はあるといってよかった。そこで、ネットであまり語られていない、背景の部分を描きたいと思ったのだ。

流れのなかにいると、流れの行く先を予想するのはむずかしい。しかし、視点を少し高くすると、流れの方向性は多少は予想がつく。それは、雨の日の水の流れを見てもわかることだろう。いま生きていくなかで、少しでも視点を高くするには、その流れがこれまで、どういうふうに流れてきたのかを知ったり、感覚として感じたりすることだと思う。そのための、手伝いになるような本にしたいと思った。

本には2つの種類があると思う。情報としてすぐに役に立つ本と、考えるための本。この本は、情報の部分もないわけではないのだけれど、どちらかというと、考えるための本だ。この本を読んでもらう時間のなかで、何を考えてもらえるかという部分を重視している。考えることに刺激を与えるような言葉や情報を、できるだけいいバランスで配置したいと考えた。もちろん、どういうふうに読んでもらうかをコントロールはできないのだけど、ブログを1ページ見るような細切れの時間ではなく(それももちろん価値はある)、ひとまとまりの時間、ひとまとまりの思考というものを生み出す空間を作りたい、その空間/体験を作ることにこそ、「本としての価値」があるだろうと思ったのだ。

だから、フラットデザインはいいとか、悪いとか、こうしなさいというようなことはあまり書いていない。アマゾンにも載せた「はじめに」でも、「答えはない」と書いている。情報としての「答え」を求めている人には、満足いただけないかもしれないので、申し訳ない。

ネット上で書評などを見ていて、よくここまで読み取ってくれていると驚かされることがある。ここに書いた意図の部分まで、実に明確に読み取られているのだ。ただ、フラットデザインの流行が終わったら役に立たないという意見がいくつかあったのは、少し残念だった。この本は、どちらかといえば、フラットデザインの流行が終わったあとに、次を考えるためのベースとして、その価値が生かせる本なのではないかと自分では思っているし、そういう風に書いたつもりだ。この時代に、このような流行のテーマの内容で、「書籍として」出すことの価値をどうつくるかという意味での、自分なりの回答のひとつをそこに置いたつもり。本書をお読みいただいた方で、もし10年後もお手元にあったなら、1章だけでもよいので読み返してみていただけたら幸せだ。

10年後に、またお会いしましょう。