セミナーなどで、デザインを発注する立場の方々の話を聞くことがよくあります。そこで感じるのは、デザインを発注することのむずかしさです。自分自身も、デザインを発注する側の立場にいたこともあり、またデザインの仕事を受ける立場として活動もしているので、その両者の気持ちはよくわかります。そこで、企業とデザイナーとの関わりについて、考えてみようと思います。
デザイナーを抱えていない企業にとって、デザイナーとどのような関わり方をするかというのは、極めて重要な問題になっています。海外では、デザイン会社の買収のニュースが報じられることが多くなっていますが、これは、企業とデザイナーの関わり方の変化の表れであるように思います。
「専門的技術者としてのデザイナー」であれば、企業の内部に存在する意味は、それほどはないかもしれません。決められたことを、できるだけ伝わりやすく、美しく表現するというだけであれば、限られた情報でも可能であり、日常的に多様なクライアントの仕事をこなしているということが、デザイン的な多様性や発想の豊かさを生むうえで、メリットになることも多いです。
ですが、外部のデザイナーに発注するためには、当然のことながらコストがかかります。したがって、仕事が確実に発生するという目処がないと、なかなか仕事のスタートラインに立つことができません。ところが、仕事がほぼ確実に発注できると決まった段階では、企画の大枠が決まってしまっているということも少なくないのです。
ビジネス的な企画で最も重要なのは、その初期段階の方向付けであることが多いものです。デザイナーを内部にもつことによって、仕事になるかどうかわからないような段階から、デザイン的な考え方を取り込むことができるようになります。デザイン的な発想を初期段階から、そしてより包括的に必要とされてきているということが、デザイナーを内部に持ちたいということの一つの原因であるように思います。
ただ、すべての企業にできることではないですし、やり方しだいでは、それぞれの企業にあった方法は考えうるだろうと思います。もちろん、実現の可能性の少ない案件ばかりを持ち込まれてしまっては、デザイナーの側も困ってしまうのですが、ディレクションの上手い人というのは、実にいいタイミングで人を巻き込むんですね。いつ、どんな情報を提供して人を巻き込むか、そこがとても重要なんです。
もちろん、そのためには、それ以前に信頼関係ができていることが必要です。それはクラウドソーシングではできない部分です。デザインを発注して、成果物を納品するというだけの関係ではなく、適切なギブ・アンド・テイクを設計したうえで、デザイナーとの関係を、ホームドクターのような関係として築いていくことは、一部の大企業だけでなく、もっと多くの企業で、可能なのではないかと思っていますし、それが必要な状況になってきていると感じています。