(価値を生みだす装置としての)デザインの話をする場

最近、デザインを発注する立場の人を対象にしたセミナーで話す機会が続いたので、実際の仕事のなかではあまり聞けない、発注サイドの悩みを聞くことができた。困ったことを解決したいからセミナーに来ているという面もあると思うが、デザイナーとの関係で困っている人がとても多いように感じる。

一つは、代理店や制作会社、印刷会社に発注していて、ディレクターや営業の人とは話せるけど、デザイナーとはあまり直接話せないので、コミュニケーションがとりにくいという場合。もう一つは、直接話せても、うまく思いを伝えられないという場合。どちらもせいいっぱいの仕事をしているとしても、デザインを依頼している人の思いとデザイナーの意図がうまく結びつかないということは、やはり少なくない。

デザイナーと発注者は、一つの仕事をはさんで向き合うのだけれど、利害がからむと見えにくくなってしまうことというのもあるように思う。その仕事を完結させることが最優先なので、それ以外のことを話している余裕がないし、会社としての立場や責任がからんでくると、人と人として向き合えていないという状況になることもある。本当はそうではいけないのだけど。

具体的な仕事をはなれて話すことができれば、もう少しお互いに理解が深まるような気がしている。イベントを企画して予約して集まるとかではなく、イギリスのパブみたいなキャッシュオンのスタンディングのところで、「この日に行くとデザインの話ができる」みたいなことができたらいいなあと思う。スポーツバーのパブリックビューみたいな感じかな。そこに来る人の共通のテーマ(関心事)だけがあって、誰とでも話せるというような。

もちろん、デザイナー同士が話してもいいし、学生や企業でデザインを発注している人でも、間でディレクションしている人でもいい。ただのデザイン好きでも構わない。色々な立場の人が、なんとなくゆるく集まって、「デザインの話をする場」を作ることはできないかなあと思っている。すでにあるかもしれないけど、そういうのが所々にできるようになると、街が価値を生みだす装置として機能しだすと思うのだ。