タッチデバイス・ネイティブのビジネス環境

今回のAppleの発表で、もう一つ興味深かったのは、iPadでファイル操作ができるようになるなど、タブレットとPCの境界が低くなっているという部分でした。
小さい頃からスマートフォンを使っている世代、あえていえば、「タッチデバイス・ネイティブ」な人たちが増えてくると、これまでPCを使ったほうが便利だと思われていた部分の作業でも、「なんで触れないの?」ということになる可能性があるかもしれません。

現在の情報機器による作業は、だいたい以下の3つの段階に分けられるように思います。

- Webの閲覧や、SNSへの投稿などの簡単なコミュニケーション
- 文書作成、プログラミング、画像編集、デザインなど
- 動画編集などのPCの負荷の高い作業

1番目は、PCからスマートフォンへの移行がすでに進んでいます。3番目の部分は、いつの時代にもあり、できるだけ速く処理できたほうが、ビジネス的には効率的ということになります。その部分が、今回のAppleの発表でいえば、iMacProなのでしょう。

2番目の部分というのが、現在のPCを利用するうえでのボリュームゾーンといえるわけですが、この部分は仕事として使うケースが多く、新規のユーザーが使えるようになるための導入コストもかかってきます。タッチデバイス・ネイティブな世代が多くなってくると、通常のPCよりもタブレットのほうが操作を覚えやすい、使いやすいということになる可能性があります。導入コストの低い、仕事で使えるタブレットという方向を考えているのかなと感じますし、実際に、企業で社員にタブレットを貸与しているケースも、よく聞くようになってきました。

これまでも、イラスト制作といった部分では、タッチデバイスが普及していましたが、その切り分けが、デザイン作業や文書作成全般にまで及んでくる可能性はあるかもしれません。文字情報の音声入力がさらに進むようになると、キーボードの重要性にも影響がでてくるでしょう。

今回のAppleの発表による、iPadでファイル操作ができるようになることなど、PCとタブレットの差を少なくしていくような方向性というのは、情報機器を使い分ける際の境界線を移動して、2番目のかなりの部分が、タブレット、あるいはタッチ操作で使えるデバイスに変わっていく可能性はあるように思います。

転換期の力、ネイティブの力

ツールというのは、登場した時の影響力と、それを子供の頃から使っている世代の影響力があるように感じています。

コンピュータが普及していく段階では、その転換期・黎明期にしかできない表現などもありました。それは例えばYMOのような表現となって表れ、それを後の時代に行おうとしても、その時代の熱のようなものは再現できません。

一方、子供の頃からコンピュータを使っていた世代というのは、転換期を経験していることとは別の価値観を思っているように思われます。子供の頃からPCに触れていた世代、ネットに触れていた世代が、今では、社会の重要な部分を担うようになってきています。

少し古いテレビドラマを見ても、スマートフォンの登場前後で、物語は大きく違っています。同じ筋書きでは語れないような変化が生じているのです。そうした大きな変化を、はじめから前提として育った世代が、どのような影響を受け、与えていくのかという部分には、関心を持って見てみたいと思います。