『ビジネス教養としてのデザイン』の考え方

『ビジネス教養としてのデザイン』が発売になって4ヶ月が過ぎました。はじめの段階では、あまり背景などを語るべきではないように思われたのですが、発行から少し時間がたってきたので、少々、執筆に関する考え方などを書いてみようと思います。

デザインの基本というときに、『ノンデザイナーズ・デザインブック』でも提唱されている「近接・整列・コントラスト・反復」の4つを原則とする考え方で説明されることが多いでしょう。これは確かにわかりやすい考え方ではあるのですが、デザイナーではない人を対象としたときに、もっとシンプルに還元することはできないかと考えました。

また、ビジネスパーソンということを考えたときに、それは情報の発信者であるということが重要です。職業的なデザイナーのように、ほかの人の伝えたいことをデザインするのではなく、自分自身が伝えたいことをデザインするということになります。つまり、より深いレベルで、情報そのものとの関わりが重要になります。

本書では、デザイン面では「揃える」ということに絞って、それを徹底して考えるという方法をとっています。上記の原則でいえば整列ということになるように見えるかもしれませんが、揃えるときには、すべてを揃えるわけではありません。「揃えるもの」と「揃えないもの」、「別の揃え方をするもの」があります。何がどういうレベルで揃えるべき情報なのかを考えなくてはなりません。何を揃えるべきか、何を揃えないべきか、情報を整理することが不可欠です。情報の発信者としては、まずここを考えることが必要です。

また、揃えるということは、位置だけではありません。色の場合には、色相とトーンという軸を使って、色そのものを揃えるのか、トーンを揃えるのか、色相を揃えるのかと考えることができます。文字の場合には、明朝・ゴシックという軸とファミリー(太さ)という軸を使って同様に考えることができます。そして、こうした表現を揃えることで、自然と反復が生まれてきます。そして、揃えるということと対比すること(コントラスト)は、表裏の関係にあります。つまり、「揃える」ということに集中して、何を揃えるのか、どう揃えるのかを徹底して考えていくことで、デザインを論理的に構成することができるようになり、情報の構造をデザインの構造として見せることができるようになります。覚えること、意識することを絞り込むことで、より徹底して考えることができるようにと考えました。

デザインには、いろいろな可能性があります。整ったデザインだけがデザインではないですが、ビジネス的な情報をわかりやすく伝えるということに限った場合には、かなり方向性を絞り込むことができます。「揃える」という極めて当たり前な原則を、徹底して考えていくことは、伝わりやすいデザインに近づくための、ひとつの有効な方法だと思います。

基本というのは、シンプルなほうがいいものですが、そのシンプルなことを徹底するのは、実はかなりむずかしいのです。例えば楽器を弾くときに、指の動きは必要最小限であることが望ましいです。ムダな動きは、指の動きを遅くするし、リズムの乱れにもつながります。ところが、この「指の動きを最小限にする」ということは、とてもむずかしい。不思議なことに、はじめのうちはムダな動きがあるほうが楽なのです。理屈で考えても当たり前なことなのに、その当たり前を実現するためには、常に意識することと、訓練を必要とします。

経験的に、このような基本部分を見直すような内容の本を書くと、初心者の方と上級者の方からの評判がよくなります。そして、初級を超えたあたりの中級者の方からは、当たり前のことだと言われる傾向にあるのが面白いところです。上級者の方は、一見当たり前のように見える基本の重要性、それを少し別の視点から見直すことの重要性を理解しているのではないかと思います。

本書はデザインの基本というものを、よりシンプルに構成しなおして、それをデザインにはあまりなじみのない人でも理解できるように、言葉として理解できるように表現するという試みとして執筆しました。各項目の見出しは、それぞれデザインするときのヒントとなるように、またシンプルな図解で、論理とイメージの両面で理解できるようにと考えて構成しました。

本書を執筆するうえでは、このようなことを考えていました。もし、関心がありましたら、見てみてください。

『ビジネス教養としてのデザイン』
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